「まったく、こいつは。」
「ココまでナルにそっくりとは驚きモノですわ。」
黒い髪に漆黒に近い深い瞳黒地の長袖長ズボンでで身を包む男が、白以外の迷彩は見あたらない部屋に寝かされている。
身動き一つしない男の姿は、薄いブルーの寝間着を着付けられ、元々白い肌がより白く青ざめて写る様子は痛々しい。
二十歳を迎える前の男の横たわるベットを前に2列になって立ちすくむ人の中で、今時珍しい古典模様の品の良い着物を着た中年女性がぽつりと呟く。
「まったくです。現所長まで生活破綻者にならなくても。」
「「「はぁ〜」」」
深く吐いたため息は、偶然皆重なる。
深い眠りについているはずの男は、ナルと同じく起きたときかなり機嫌が悪いだろうが、一度は殴っり、罵声を浴びせないと気が収まりそうもない。
中年男性の一人が、心の中で誓う。
ナルと麻衣が結婚して22年。
三人の子供に恵まれた二人は、ナルの仕事でアメリカに出張している。
ナルの天才的な頭脳を受け継いだ三人の子供たちの上の二人は若くしてSPRに勤め、仕事に励んでいる。
ナルが立ち上げてとあって、簡単につぶせず残された日本支部の所長は数回立ち代ったが、長い任期はせず、現在ナルの長男が引き継いでいるのがナルの次に任期が長いことで落ち着いている。
ナルの助手に昇格したもと調査員兼事務員のアルバイト女学生の麻衣とは裏腹に、天才女子として若くから注目され海外の大学で数多くの論文を書きとめて成果を出した長女が、いまの所長の面倒をにわっている。
鬼のいぬまになんとやら、妹が数日間の出張でイギリスに戻っている間、ろくに睡眠も食事もとらずにいたの結果、倒れ病院に運ばれてた。
長女にはすでに連絡を取ったので、あとは彼女が来るまで病院に任せておいて平気だろう。
綾子と結婚するために医師免許を取った、内科医師の旧姓滝沢、今は松崎と名乗る男は、苦渋を浮かべ男を見守るモノ達につげ、病室を後にした。